最後の雪と願いつつも薄く降り積もるここ数日
つい二週間ほど前の話
出向先から事務所に戻るため、いつもの地下通路を通ると、
地下の露店スペースで古本蚤の市が開かれていました
どうやら本日が最終日らしい
大方の本が破格の値段まで下げられていました
嬉しさを通り越して、もう、悲しくなるほどまで
ひと昔前はブックオフなどの全国中古本チェーン、
今はヤフオクやAmazonのマーケットプレイス、
次々現れる強大すぎる外敵に散々に蹴散らかされ、
全国の古本業界は苦難を強いられています
最終日とあって結構な人が集まっていたけれど、
少し物寂しい感じがしたのは、
店主とお客さんの年齢が高めだったからかもしれません
そして、売られている本がふた昔くらい前の、
それゆえに価値の見出されない安価なものが多かったこと
古書の華と成す稀覯本の渋い存在感や、
真新しいベストセラーの放つ流行の光芒に乏しいからか
近づいてよく見ると、実はひとつのお店ではなく、
市内の3~4店舗の合同開催であることが判りました
かつてのライバルたちは力を合わせて、
決して安くはない露店のスペースを借りたのでしょう
でもそれは、開通してまだ幾年しか経っていない清新な空間のなかで、
古色蒼然とした仲間たちが、身体を小さくして肩を寄せ合っているような、
そんな健気だけれど、場違いな空気を感じさせました
しかしわたしはと云えば、間違いなく「そちら」側の人間です
学生時代、毎週必ず地下鉄を中心に沿線の古本屋さんを巡ったものです
今回出店していたお店は全部、若かりし頃、足繁く通ったお店でした
もう、行かなくなって何年経つのだろう
身体は昔の習性を忠実に憶えているものです
棚に近づくと時空を忘れ夢中になって物色している自分が居ます
そうなのです
目の前の本と自分だけがそこに対峙して、
時間と空間を別の世界に置いてけぼりにするような、あの感覚
左手に大きな鞄、
右手にハードカバー3冊を抱え目を血走らせていると、
店主が声を掛けてくれました
レジの前を指差し「ここに置いておくといいよ」
以前にお逢いしたような、そうでないような、
でも親切そうな初老の店主
お言葉に甘えて本を置き、
さらに数冊を選んで会計を済ませました
わたしの本を袋に入れながら、
「この本とその本、さっき補充したばかりなんだよね」
と、なぜかとても嬉しそうに話してくれました
「ホントぉ?ツイてるなぁ」と答えるわたし
お昼どきで往来が賑わう中、再び歩き始めました
事務所まであと20分程の道のり
両手の荷物は数㎏も増えてしまいましたが、
これほど足取り軽く、帰るのは久しぶりです
久しぶりに、また古本屋に行きたくなりました